Nice books

読書家ではないけど本が好きで、本屋さんで本を買うのが楽しみの一つです。

お気に入りの書店へ行ってグルグル歩きながら、いいなと思う本をピックアップしていきます。

頭の中の店内図にピンを立てていく作業です。あの辺のあれ、あの辺のあれ、と。

一通り見て回ったら、また1週してピンを立てた本の中からこれだというものを1つ選びます。

本屋さんで本を買うことは、1つの出会いだと思います。

本屋さんのセンスも大事だけど、その時の私のコンディションも大事で、気持ちが塞いでいる時にはいいと思える本は現れない。

その時の私のアンテナがどういう方向にどのくらい開いているかで、見つけられるものが違うように感じます。

ネットで買うのも便利だけど、たくさんの思いやたくさんの表現が本という形になって並んでいる。その中を歩くのは特別な時間です。

ふかふかの絨毯や木の床、印刷の匂い、カフェの音を聞きながら、どうしても1冊に絞れない時は、2冊買います。

レジでブックカバーをつけてもらっている時、今日選んだ本がだんだん自分のものになっていく。嬉しい瞬間です。

 

Nice booksでは私のお勧めの本を紹介していきたいと思います。


01 『星宙の飛行士』

星宙の飛行士(ほしぞらのひこうし)

油井亀美也/林公代

/国立研究開発法人 宇宙航空研究開発機構(JAXA)

発行:実務教育出版

 

著者の油井さんは航空自衛隊のパイロットから宇宙飛行士になったという稀な人です。

油井さんの存在を知ったのは、ラジオ番組でゲストとして登場された時でした。

ヨガをするようになってからなぜか、宇宙飛行士の人に興味を持つようになりました。

宇宙飛行士の人の視点が、ヨガで目指していることに近いような気がするのです。

ラジオで話す油井さんの言葉がすっきり簡潔で、前向きで、愛情に満ちていたことからもそう感じました。

 

そんなわけでこの本は本屋さんではなく、ラジオで油井さんが話し終わる頃にはもうネットで注文をしていました。

今までで一番早い決定だったと思います。

油井さんが国際宇宙ステーション(ISS)から撮影した写真がたくさん載っています。

宇宙ステーションの中は無重力だから、上下というものがない。

最初は慣れないけど、だんだん上も下もないという感覚に慣れてくるのだそうです。

そして地球に戻ってくるとすぐに上下の感覚が戻るのだそうです。

人間の適応力ってすごいなと思いました。

 

私にとってこれまた未知だった自衛隊という組織の雰囲気も感じられて、いろんな生き方があるなあと。

どこに所属していても人は人だと、暖かい気持ちになりました。

 

自衛隊時代は仮想敵として捉えていたロシアの人も、宇宙を目指す上では仲間になる。

「ロシア語没入訓練」というのは面白い言葉だと思いましたが、ロシアの言葉、文化、歴史を学んでロシアの見方が変わり、幸せに対する考え方も変わったのだそうです。

 

一番感動したのは、一緒に宇宙飛行士を目指した仲間たちと作った折り鶴を、油井さんが宇宙へ持って行って船内に浮かべたところで、バックの窓には地球が写っています。

たくさんの人の思いを抱えて宇宙に向かった油井さんの体験を、そのまま感じることができる、心温まる1冊です。

(2020.4.22)


02 『インドよ!』

インドよ!

東京スパイス番長

シャンカール・ノグチ/ナイル善己

/メタ・バラッツ/水野仁輔

発行:マイルスタッフ

 

初めてのインド行きを決めた時、本屋さんでキラッと光るこの本に出会いました。

見るからに面白そう。装丁も素敵です。

東京スパイス番長というのは「日印混合料理集団」。

この本では4名が執筆されていますが、それぞれインドと縁の深い方達で、いろんな経験が魅力的に語られています。

私のインドへの印象が劇的に良くなったのは、この本のおかげです。

私がインドを大好きになったのは、この本の影響が大きいです。

インドって無茶苦茶なんだな、というのをいい角度から教えてもらった感じがします。

 

巻末にはインドのお薦めレストランガイドが載っていて、3度目のインド滞在の際にそのうちの1つに行くことができました。

ビリヤニ(インドの炊き込みご飯)のお店で、インド人がどんどんやってくる人気店でした。もちろん美味しかったです!

 

インドへの愛情あふれる文章も素敵ですが、写真がまた素晴らしい。

楽しい気持ちとちょっとドキドキ、そして胸のあたりが暖かくなる、お勧めの1冊です。

 

(2020.4.25)


03 『一汁一菜でよいという提案』

一汁一菜でよいという提案

土井善晴

発行:グラフィック社

 

この本は間違っても料理のレシピ本ではないと思います。

食事を通しての日本人にとっての生活、生き方、美意識というものが綴られています。

土井善晴さんといえばさくさく明るく楽しい料理人のイメージですが、この本では優しくも力強いメッセージが感じられます。

一汁一菜という食事の型を作って、それを毎日の安心、心の置き場所にするという考えが素晴らしい。

反射的なおいしい!という感覚は脳がおこしていると思うけど、それとは別に体全体が喜ぶおいしさ、というものがある。という話が出てきます。

「体は鈍感、ということでもないですが、すぐにはわからず、食べ終わってから感じる心地のよさのような感覚、体がきれいになったような気がする…というあれです。一方でその穏やかな優しさに、脳は気づかないことが多い。どうも脳は体と反対の方向を向いていることがあるように思います」

この言葉に深く共感しました。

ヨガをしていて私も同じように思います。

私たちは派手な刺激にはすぐに飛びついてしまいますが、幸せな感じというのは、案外地味で何でもないことだと思います。その身体感覚ともいうべき、ささやかな感覚が大切なのだと改めて思いました。

 

もちろんおいしそうな献立も不思議な味噌汁(!)もたくさん載っています。

私はご飯を羽釜で炊いているので、ご飯の炊き方が変わりました。おいしいです。

この本を久々に読み返して、お膳が欲しいな、と思いました。

(2020.4.28)


04 『やさしいインド料理』

 

インドでごはんのおいしさに感動した私は、インドのカレーが作りたくなりました。

本屋さんにはインドのカレーの本がずらっと並んでいました。手にとっては戻し、手にとっては戻し、お茶タイムを挟んで選んだのがこの1冊です。

「ナイルレストラン」ナイル善己の

やさしいインド料理

ナイル善己

発行:世界文化社

 

ナイル善己さんは前に紹介した「インドよ!」で知っていたので、親しみが湧きました。何気ないアドバイスがやる気を起こしてくれます。

写真のきれいな料理本はたくさんありますが、この本が良かったのは北インドと南インドのカレーの作り方を、わかりやすく解説してくれているところです。

スパイスの使い方、材料の切り方、炒める順番など、初めて作る時にはありがたい指南書となっています。

 

この本だけで3年近くインドのカレーを作っています。インドへ行くたびによーく味わって、だんだん現地の味に近づいてきたように思います。

最近はレシピを組み合わせて、好きな材料を使ってちょっとオリジナルのカレーも作れるようになってきました。

私はジャガイモが好きなので、アルーマサラ(ジャガイモのスパイス炒め)を普段のおかずにも時々作ります。

おいしいだけじゃなく、なんか元気になります。

インドのカレーを食べた次の日はいつもより少し前向きな気持ちになるのは不思議です。たぶんターメリックあたりに…(ひつこい)

 

同じく「インドよ!」で執筆されていた水野仁輔さんの本もたくさんあって欲しかったのですが、情報量が多くて、「す、スパイスだけでこんなに…!」とクラクラ。初心者の私にはこの本がちょうどよかったと思います。

 

(2020.5.6)


05 『こといづ』

こといづ

高木正勝

発行:木楽社

 

私は音楽には疎く(聞くのは好きですが)、音楽の世界にも疎いので、高木正勝さんのことも知りませんでした。

だから本屋さんで、何気にこの本を手に取ったことは幸運だったなと思います。

帯に吉本ばななさんの言葉があったことも選んだ理由でしたが、シンプルできれいなタイトルと温かみのある装丁が手にしっくりきました。

著者の高木正勝さんは、映画音楽で活躍されている、音楽と映像の作家さんです。

この本は雑誌に執筆されたお話が6年分収まっています。

その6年の中で、どうも相当田舎の方に住まいを移されたようで、生活の変化から文章も少しずつ変わっていってるように思います。

 

話し言葉も書き言葉も、「言葉」は「音」だなというのをずっと思ってたのですが、高木さんの文章を読むとそれがはっきりと感じられます。

毎日読むのを楽しみにして、少しずつ読みました。読んだ後は頭の中にいい音が入って、暖かい気持ちになりました。

 

文章がきれいとかそういうことではなく、むしろ変わった文章です。思うこと、感じていることをなるべくそのまま表現されている感じで、だけどこんなに自由に言葉を使えるなんて、なんて素敵なことなんだと思いました。

村のおじいちゃんやおばあちゃんとのやりとりが、暖かく胸に残ります。

 

挿画を奥さんが描かれているようで、これも何とも言えない、いい絵なのです。

絵の色づかいも月日を経るごとに、どんどん優しくなって強くなっていってるように感じました。

優しいと強いは一緒だよなあと。

 

男とか女とか、若いとか歳とってるとか、都会とか田舎とか関係なく、自由でいられることは素晴らしいことだと、そう思いました。

 

素晴らしい1冊、素晴らしい音楽です。

 

(表紙、とてもいいので帯は外して写真撮ってます。)

 

(2020.5.20)


06 『疲れない体をつくる「和」の身体作法』

『能に学ぶ「和」の呼吸法』

疲れない体をつくる「和」の身体作法

能に学ぶ「和」の呼吸法

安田 登

発行:祥伝社

 

 

下掛宝生流ワキ方の能楽師であり、論語など古典を学ぶ活動でも活躍されている安田登さん。私が勝手に尊敬している大人の1人です。というか単にファンというのでしょうか。

 

安田さんのことを知ったのは、雑誌か何かの冊子のようなもので対談されている記事を読んだ時のことでした。

安田さんは「初心」について話されていて、その話がとても面白かったのです。

すぐに安田さんの本を探しました。

最初に買ったのがこの2冊です。

偶然にも、その初心の話がこのオレンジ色の本の方に載っています。

 

『初心の「初」という漢字は衣偏と刀からできています。

「衣を刀(鋏)で裁つ」それが「初」という漢字のもとの意味です。すなわち「初」とは、まっさらな生地である布に、はじめて刀(鋏)を入れることを示す漢字なのです。

ーーーー何かを始めるときには、ドキドキ楽しい気持ちとともに、「うまくいかなかったらどうしよう」、「失敗したら笑われる」、あるいは「何が起こるかわからない」という不安や恐怖心もあります。その怖さに、新たな世界に足を踏み入れるのを逡巡してしまいます。そんなとき、不安や怖さを抱えながらも、まっさらな布に鋏を入れるように、新たな世界に「えいっ」と飛び込む、そんな勇気ある気持ちが「初心」です。

現在「初心忘るべからず」は、それを始めたときの初々しい気持ちを忘れてはいけない、という意味で使われています。しかし、世阿弥は「時々の初心」という言葉を使いました。その時々に初心があるというのです。が、初恋が何度でもあるように、この初々しい「初心」も、何かを始めたときの最初の気持ちだけではなく、折あるごとに古い自分を裁ち切って、新たな自分として生まれ変わる「初心」が要求されます。

ーーーー自分を裁ち切るわけですから、そこには痛みが伴います。』

 

本文はさらに続き、この後「心(しん)」の話へと進みます。

 

安田さんの話はどれも面白いですが、体のこと、呼吸のことを実践的に学んでいくのにも役立ちます。

能の世界や古典に触れながら、身体作法や呼吸法を通して、体や心の中心となるものを探っていく、そんな試みだと思いました。

 

実は安田さんには1度お会いしたことがあります。

京都・法然院で小さな能の舞台があった時、この本を持って安田さんに会いに行きました。なのでこの本には安田さんのサインが入っています!

私の名前を「変わった名前(漢字)ですね」と言ってくださって、もちろんいい意味だと思いましたので、嬉しかったです。

感謝を伝えに誰かに会いに行ったのは、それが初めてだった気がします。

 

(2020.6.7)

 

 


07 『楽しいムーミン一家』

 

私は体と心の具合が悪くなってヨガを始めましたが、少しずつ力がついてきて、ようやく文字が読めるだけの集中力が回復した時、何かいい本はないかなと思い、友人に相談をしました。

その時勧めてもらったのがムーミンシリーズでした。

 

楽しいムーミン一家、ムーミン谷の彗星、ムーミン谷の夏休み、ムーミン谷の冬、ムーミンパパの思い出、ムーミン谷の仲間たち、ムーミンパパ海へ行く、ムーミン谷の十一月、小さなトロールと大きな洪水ムーミンシリーズ全9巻)

訳:山室 静、下村隆一、小野寺百合子、鈴木徹

トーベ・ヤンソン 作/絵

郎、冨原眞弓

発行:講談社〈青い鳥文庫〉

 

 

日本ではアニメでもお馴染みで、かわいいけどどこか怖い、不思議な絵とお話です。

最近はお話自体よりキャラクターの方が有名になって、一人歩きしている感じでしょうか。

作者のトーベ・ヤンソンさんは、やはり日本ではフィンランドの作家として有名で、きっと作品だけでなく、生き方にも憧れている人が多いのではないでしょうか。

 

物語はフィンランドの風土が生み出したトーベ・ヤンソンさんの世界です。

その中でムーミン谷の登場人物たちは、とても個性的です。

もっと言えばみんな変な人です。(人じゃないけど)

日本ではカッコいい人の代名詞である「スナフキン」も原作の中ではまあまあ変わった人です。スナフキンのお父さん、ヨクサルにおいては完全に変人です。

 

みんな変、誰もまともな人なんていない。(ムーミンママだけ優しくてしっかりしていて理想的な人に見えますが、でも黒いバックを肌身離さず持っているって変わってる)

読み進める内に、物語の登場人物に自分の家族や知り合いが当てはまっていき、私はこの人とこの人の間くらいだな、などと思うのです。

そしてこの誰もまともじゃない世界に、心底癒されたのでした。

みんなでワーワー言いながら季節を越え、災害を乗り切り、不思議な経験をし、時に1人になって冒険をしたり、生きてるってなんてかわいらしいんでしょうか。

 

みんな違うから面白い。厳しい自然があるから楽しい。

恐れと暖かさを持ってこの世界を見つめている、トーベ・ヤンソンさんの眼差しを物語全体に感じることができます。

 

生きていることに疲れを感じたら、ムーミンシリーズをお勧めします。

もちろん元気な時にもどうぞ!

 

(2020.6.25)


08 『奇跡の脳』

脳科学者の脳が壊れたとき

 

 

タイトルだけ見ると怪しい宗教書のようで一瞬ギョッとします。

でも読んでみるとサブタイトルの通り、科学者である著者の経験が語られている、とてもリアルな本でした。

奇跡の脳

脳科学者の脳が壊れたとき

原題:My Stroke of Insight

ジル・ボルト・テイラー

訳:竹内 薫

発行:新潮社

 

 

ジル・ボルト・テイラーさんはアメリカの脳科学者です。かの有名な「TED」(クマの方じゃない)にも出演されている、わりと有名な方ですから、ご存知の方も多いかもしれません。

脳と神経の専門家として活躍されている最中、脳卒中で倒れ、出血によって脳の左半球の機能を著しく損なってしまいました。言語や運動を司る部分です。

ジルさんがすごいのは、この経験を、どんどん失われる働きの中で観察し続け、働かなくなった言語野の代わりに右脳の感覚野を使って記憶し、長いリハビリ生活の後に、再び言語化することができたということです。

この経験が何よりも奇跡的です。

 

そしてこの言葉の働きのない、体を自由に動かすこともできない状態で見続けた感覚で捉えた世界に、深い興味を覚えます。

 

ジルさんは、脳卒中の起こった朝、脳卒中になったことに自分で気づき、ものすごい時間をかけて助けの電話をかけます。

意味を消失していく意識の中で、自分自身に「覚えていてね、この経験を」と願うのです。

その前向きな姿勢が回復を促したことは言うまでもないと思います。

 

この本は私がヨガの理論の勉強をしていた時に勧めてもらった本です。

「『奇跡の脳』は、心の沈黙という形のない奈落へ旅したときの、わたし自身による年代順の記録です。この旅の間じゅう、わたしという存在の一番大切な部分は、深い安らぎに包まれていました。」

この深い安らぎに対するジルさんの考察は、ヨガの手引きにもなる、貴重なものだと思います。

自分の人生に起きることを完全にコントロールすることはできないけど、自分の人生をどうとらえるかは、自分で決めるべきことだ、という言葉に深く共感しました。

 

翻訳の竹内さんが、このいろんな意味で複雑な本を、読みやすく面白い読み物にしてくださっていてありがたいです。

 

 (2020.7.16)

 

 


09 『たもんのインドだもん』

 

矢萩多聞さんのことを知ったのがいつだったか思い出せないのですが、きっと初めてのインド行きから間もない頃にこの本を読んだのだと思います。

いつものように本屋さんをグルグル歩きながら、本と本の間に「たもんのインドだもん」という薄い背表紙を発見し、手にとりました。

いい出会いというものは、会った時にどこかですでに喜んでいる感じがあるように思いますが、この本もまさにそんな感じで「いいもの見つけちゃった。へっへっへっ」と思いました。

 

コーヒーと一冊

たもんのインドだもん

矢萩多聞

発行:ミシマ社 京都オフィス

 

 

著者の矢萩多聞さんは中学1年生で学校へ行くのをやめ、絵(ペンによる細密画です)を描きながら南インドに半分、日本に半分でずっと生活されていた、なんというか珍しい人です。

近年は装丁家として活躍されていて、なんと現在は京都にお住いのようです。

 

この本には、まだ子供だった頃からインドで生活をした、矢萩さんの見た濃ゆいインドが色鮮やかに描かれています。

特にインドの人たちとのやりとりが面白く、インドへ行ったことのない人もインドに興味のない人にも、楽しく読める本だと思います。

 

私のインド行きは、矢萩さんの経験とは比べものにならないですが、インドの人や街に感じるエネルギーと、なんとも言えない温かさやホッとする感じが、矢萩さんの言葉によって蘇ってきて、嬉しくなります。

矢萩さんの言う「良くも悪くも人と人との距離が近い」ことが、日本との大きな違いなのかもしれません。

 

何もかも日本とは違うインドになぜか懐かしさを感じるのは、人との距離が近かった頃の感覚を体のどこかで覚えているのかもしれない、そんな風に思います。

 

矢萩さんのお話と絵でインドの空気、感じてみませんか。

 

 (2020.8.6)

 


10 『タラブックス』

 

ある日書店で見つけた「タラブックス」という本。

インドの小さな出版社の話だとわかって迷わず買いました。

 

タラブックス

野瀬奈津子

松岡宏大

矢萩多聞

発行:玄光社

 

 

インド・チェンナイにある小さな出版社、タラブックスは「インドの子供たちのために」という思いで本づくりをされていて、その中にはハンドメイドのものもあるようです。

インドでは子供のためのインドで作られた“いい本”がほとんどない、という状況があったようです。

その背景にあるのは、インドは口承を尊ぶ文化であること、もう一つは言葉の問題で、公用語とされるヒンディー語、英語でさえ読み書きできる人は限られているということです。地域によって使う言葉が違うのでインド人同士でも言葉が通じないのは日常のことです。

タラブックスの創設者である2人のギータさんは、インドの紙、インドの印刷、インドの絵、インドのお話でいい本を作ろうと活動を始められました。

素晴らしさは出来上がる本だけでなく、出版に関わる全ての人との関係も、また素晴らしいのです。カーストの影響が強く、職人の地位の低いインドで、職人さんたちがきちんとした待遇で、いい環境で仕事ができるように様々な工夫がされているようです。一緒に働く人たちは家族のように扱う、日本では松下幸之助さんの信念と重なるでしょうか。

もう一つ特筆すべきは、インドの少数民族のアーティストたちとの仕事です。インドにはたくさんのトライバル(少数民族)アーティストがいて、その中でずっと継承されてきた絵の描き方というのが今も残っているようです。トライバル・アーティストたちとの共同作業では、本というより立派な作品が出来上がっているように思えます。

 

この本にはタラブックスと本のできるまで、職人さんたちの紹介、少数民族のアーティストを訪ねる紀行、タラブックスと日本の関係などが綴られています。

前回のNice books で紹介した矢萩多聞さんがタラブックスを訪問されています。

2人のギータさんの対談もあります。

タラブックスにはきっと世界中にファンがいると思います。

小さくて大きな試みに、遠くからエールを送りたい、そんな気持ちになりました。

 

(2020.8.27)


11 『ブッダが教える愉快な生き方』

 

NHK出版の「学びの基本」というシリーズが本屋さんに陳列されていて、「あ、安田さんが書いてる」(Nice books 06 で紹介した方)と思って近づいたら、その隣にこのタイトルを見つけました。なんだか面白そうに思えて手にとりました。

「はじめに」という前書きに、優しい言葉で「学ぶこと」について触れてありました。

ああ、教科書がこういう言葉で書いてあったら理想的だなあと思い、いい本見つけちゃったと思って買いました。

(安田登さんの「役に立つ古典」ももちろん一緒に買いました)

 

学びのきほん

ブッダが教える愉快な生き方

藤田一照

発行:NHK出版

 

 

著者の藤田一照さんは曹洞宗のお坊さんで、禅を学んだ後、アメリカで座禅の指導をしてこられた方です。

この本はブッダという人の生き方と、生涯学び続けるという僧侶の姿勢を、藤田さんの暖かく好奇心に溢れた言葉で、わかりやすく綴ってあります。

お坊さんの説教臭さもなく、仏教や座禅について学ぶのにとてもいい本だと思います。

ヨガは動禅と言うくらいですから、ヨガのことを学ぶのに、日本では禅のことを学ぶのが役立つ気がします。

 

第3章「頑張らない座禅」の中で、「調身、調息、調心」の話をされていますが、トップダウン式とボトムアップ式という例えをされています。

頭を使って意識的に強制的に体や呼吸や心をコントロールしようとするトップダウン式に対して、心身の方から自ら調う力を起こしていく、その働きを邪魔しないようにするというボトムアップ式の調え方は、ヨガをしていても大事に感じることです。

「ほっといたら勝手に調う」という力は、やらないといけないことがいっぱいの日常を送っていると、すぐに分からなくなってしまう気がします。

藤田さんの修行生活中の話も面白いです。「受けたもーう」といって起きるところとか。

 

私はヨガというのは「生きる姿勢を学ぶもの」だと思っています。

本書はその基本となる姿勢と、向かう先の両方を、とてもきれいに指し示してくれているように思います。

読後のすっきり感も嬉しい、ありがたい1冊です。

 

 (2020.10.28)